大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(ワ)18024号 判決

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金二億四五八一万九五五二円及びこれに対し被告三洋証券株式会社については平成三年一二月二六日から、同伊藤博元については同月二七日から、同田中雅紘については同月二九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告三洋証券株式会社は、原告に対し、金一億〇八七七万七九三六円及びこれに対する平成三年一二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、被告らの負担とする。

五  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

被告らは、原告に対し、連帯して金三億五四五九万七四八八円及びこれに対し被告三洋証券株式会社については平成三年一二月二六日から、同伊藤博元については同月二七日から、同田中雅紘については同月二九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  (主位的請求)

1 原告が平成二年三月九日、被告三洋証券株式会社徳山支店(以下「被告会社徳山支店」といい、被告三洋証券株式会社を指す場合は「被告会社」という。)の外務員である被告伊藤博元(以下「被告伊藤」という。)から日本化学工業の株を推奨され、同日及び同月一二日に同支店の外務員で原告担当の被告田中雅紘(以下「被告田中」という。)を通じて購入した日本化学工業株合計二〇万株を、同月一三日午前一〇時ころ、売り注文を出したにもかかわらず、被告田中と同伊藤は共謀して売り注文を執行しなかったとして被告らに対し不法行為に基づき二億四五八一万九五五二円の損害賠償を請求している。

2 被告伊藤及び同田中は、同月一三日に日本化学工業株を三万四〇〇〇株、同月一四日に同株五万株を原告に無断で買い付けしたとして主位的には不法行為に基づき、予備的には同取引は原告に帰属しないとして同取引が原告に帰属しなければ、被告会社に契約に基づき返還を求めうる一億〇八七七万七九三六円を請求している。

(予備的請求)

被告らは共同して日本化学工業株の株価を人為的に変動させ、その結果原告に損害を被らせたとして証券取引法一二五条二項一号、一二六条(現在、同法一五九条二項一号、一六〇条)及び民法七〇九条、同七一五条に基づき三億五四五九万七四八八円の損害賠償を請求している事案である。

二  争いのない事実

1 原告は、平成二年三月九日に被告会社徳山支店に証券類約四億円を保護預かりとし、被告会社徳山支店と取引を開始した。

2 被告会社徳山支店の原告担当の外務員は被告田中であった。

3 原告は、平成二年三月九日に被告伊藤及び同田中の推奨する日本化学工業の株一〇万株(六万四〇〇〇株単価三二〇〇円、三万六〇〇〇株単価三一九〇円)を購入した。

4 被告伊藤及び同田中は、翌一〇日に原告宅を訪問し、日本化学工業株の買い増しを勧め、原告は同月一二日に同株を単価三二七〇円で一〇万株を購入した。

5 原告は、同月一三日午前一〇時ころ、被告会社徳山支店を訪れ、日本化学工業株三万株を現引くこととし、その場で被告田中に原告の妻に送金をするように電話をさせ、被告会社徳山支店に九七〇〇万円の送金をさせた。

6 同日の後場において被告田中は、原告の買い注文があったとして日本化学工業株八万株の買い注文を出し、同日その内三万四〇〇〇株を買い付けた。

7 翌一四日、被告田中は、原告から買い注文があったとして日本化学工業株五万株を当初被告伊藤が他人名義で買い付けていた同株五万株を原告に割り振り、同日五万株を買い付けた。

8 原告は、平成二年三月二七日、原告名義の日本化学工業株の全株である二八万四〇〇〇株を売却した。その結果、原告は、三億五四五九万七四八八円の損失を受けた。

三  争点

1 原告は、被告田中に平成二年三月一三日、日本化学工業の二〇万株を指し値三三七〇円で売り注文を出したか。また、被告田中及び同伊藤は、共謀して右売り注文を執行しなかったか。

(原告)

原告は、平成二年三月一三日、午前一〇時ころ、日本化学工業の株価が三三七〇円をつけ、購入時よりも上がってきたので利食いをするため被告田中に対し同被告の耳元で「三三七〇円で売っちょけ」といって、同株二〇万株の売却を指示するとともに信用取引のまま売却決済すると利益に対し二〇パーセントの所得税が課されるが、現金を被告会社徳山支店に払い、株券の引き渡しを受ける(いわゆる現引き)と所得税は譲渡代金の一パーセントで済むため、三万株の現引きの資金として九七〇〇万円を被告会社徳山支店に送金した。

しかし、日本化学工業株は、被告伊藤の株価操作の対象となっており、大量の日本化学工業株を売却することにより同株の株価に影響を受けることをおそれ、売りを渋った被告伊藤の意向を受けた同田中は同株二〇万株の売り注文を執行しなかった。

2 被告田中が、平成二年三月一三日、原告名義で買い付けた日本化学工業株三万四〇〇〇株及び翌一四日、原告名義で買い付けた同株五万株は、原告からの買い注文があったか。

(被告)

原告は、平成二年三月一三日午後に被告会社徳山支店を訪れ、被告田中に対し、あとどれくらい買えるのかと質問した。被告田中が約八万株であると回答すると原告は三三〇〇円の指し値で八万株の買い注文を出した。被告田中は、右注文を執行したが、同日は三万四〇〇〇株の買付けができたに止まった。原告は、翌一四日に三二七〇円の指し値で五万株の買い注文を出した。被告田中は一四日朝から三二七〇円の指し値で五万株の買い注文を出していたが、同値段での売り物がなく、原告に三三〇〇円ではどうかと問い合わせたところ、原告は了承したので三三〇〇円で五万株の買付けを成立させた。

3 前記2の買付けが、原告からの買い注文がなく無断買付けである場合、原告は平成二年三月二三日又は同月二七日に右無断買付けを追認したか。

(被告)

原告は、平成二年三月二〇日、信用取引の保証金が不足を来たし、同月二三日、他社に預けていた東急の株六〇〇〇株を被告会社徳山支店に預託して追い証を差し入れているが、これは原告が無断買付けとする取引を認識して差し入れたものであり追認といえる。

また、原告は平成二年三月二七日に原告名義の日本化学工業株の全株である二八万四〇〇〇株を売却しているが、これは原告の被告会社に対する懇請に被告会社が応じ、買い取ったものであり、仮に無断買付けが行われたとすれば、右売却は追認に当たる。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1 《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(一) 日本化学工業の株価は、平成元年九月五日に単価一〇六〇円を付けた後、急騰に転じ、同年一二月一五日に二五六〇円まで上昇し、その後翌平成二年三月初めころまでは二二〇〇円から二五〇〇円の間を上下していたが、同年三月初めころから再び急騰を始め、三月一三日に三四一〇円という最高値を付けた後、急落し、翌四月五日には一二六〇円となった。その後、五月二八日に株価を二七一〇円まで持ち直したが、その後再び急落した。

(二) 被告伊藤は、被告会社徳山支店の外務員としては、平成二年当時、売上成績は一位であり、被告会社全体でも十指に入っていた。

また、被告伊藤は、日本化学工業の株については、平成元年四月ころ同株価が一〇〇〇円位の低い時期から手掛けており、その情報を広く集め、日足の罫線を引くなど熱心に研究しており、顧客に対し同株を熱心に勧めていた。被告伊藤が原告に同株を勧めた平成二年三月九日ころは株価も急騰の時期であったことから、同被告は同株についてはかなり強気であった。

(三) 原告は、昭和三三年ころから株取引を始め、株取引の経験は豊富であった。

原告は、被告田中とは同被告が呉第一証券に勤務していた昭和四五年ころに知るところとなり、被告田中が同四六年に被告会社徳山支店に移り、同五六年ころに原告の担当となってからは現物取引を少しした程度で信用取引を行ったのは本件の日本化学工業の株取引までは昭和六三年に京成電鉄の株取引が一回あっただけであった。

(四) 原告は、被告会社との株取引では短期的に利益を上げようと考えていたが、平成二年三月九日、被告田中から同伊藤を紹介され、同被告から日本化学工業の株について説明を受け、同株を買うことを勧められ、その結果、原告は、被告会社徳山支店の原告の担当である被告田中に対し同株を一〇万株買い注文を出した。なお、原告は、被告伊藤にもこの株取引で短期的利益を上げようとしていることは話していた。

(五) 平成二年三月一〇日、一一日は土曜、日曜日で被告会社は休みであるにもかかわらず、被告伊藤は同田中と共に、原告宅を訪問し、被告伊藤の方が主に原告に対し日本化学工業株を再び推薦し、同株をさらに買い増しするように勧めた。

(六) 原告は、平成二年三月一三日午前一〇時ころ、被告会社徳山支店に来て三万株の現引きを行い、直ちに現引き資金九七〇〇万円を被告田中に原告の妻に電話してもらい被告会社徳山支店に送金させたが、その目的は日本化学工業株を売却するに際し、そのうち三万株を現物で売ることにより税金を安くするためであった。

(七) 平成二年三月一三日昼、原告と被告田中は徳山市の繁華街でばったり会い、その後「敦煌」という中華料理店に行き、二人で食事をしたが、そこで被告田中は原告から日本化学工業株を「どうして売らんのか」、「伊藤に気兼ねして売らんのか」と詰問された。

(八) 被告伊藤の顧客であった訴外松浦敝子(以下「訴外松浦」という。)が、同被告に対し、平成二年三月九日(金)、一二日(月)、一三日(火)の各日に同訴外人所有の日本化学工業の四万株の売り注文をしたにもかかわらず、その執行をしなかったとして、また、同月一四日と一五日に被告伊藤が訴外松浦に無断で同訴外人名義の日本化学工業の八万株を買い付けたとして紛争となったが、被告伊藤は訴外松浦の主張を全面的に認め、被告会社と訴外松浦との間で、右四万株については訴外松浦の主張する売却依頼時の単価(三三八〇円)で売却したことにして損失を填補する内容の、また右八万株については、訴外松浦には帰属しないという内容の示談が成立し、示談金については右以外の紛争の示談金も合わせ、一億五二六八万〇六八五円が訴外松浦に支払われた。

なお、この示談金は、被告会社と被告伊藤との関係においては、被告会社が被告伊藤のために立て替えた形式がとられている。

(九) 原告は、平成二年三月二七日午前三時ころに被告伊藤宅において「お前の片腕をもらう」などと凄み、三時間近くも居座り、同日午前一〇時一〇分ころ、被告会社徳山支店において被告伊藤の顔面を数回殴打する暴行を加え、翌平成三年七月二三日午前九時一〇分ころ、同支店において被告伊藤に対し、顔面を数回殴打する暴行を加えたが、平成二年三月二七日の各事実については不起訴となり、平成三年七月二三日の事実では公判請求され、懲役六か月、執行猶予二年という判決を受けた。

2 被告田中は、第一回目の被告本人尋問期日においては、一般論としては現引きは、株を売る前提として節税を図る場合と現引きによる金利の軽減を行う場合がある旨証言しているが、原告が平成二年三月一三日に行った現引き(以下「本件現引き」という。)については、売る前提として節税を図る目的であったと明確に証言している。

したがって、原告が日本化学工業の株では短期的に利益を得ようとしていたことは、被告伊藤の証言や陳述書からも明らかであるから、ある程度長期の保有でなければ効果のでない金利軽減という目的は本件現引きでは問題とならないといえる。

被告田中は、「敦煌」での食事の日にちについて三月一四日であるとし、食事の際、原告から「なぜ売らないのか」と言われていたと証言している。しかし、被告らの主張によれば、原告は一三日に後場に三万四〇〇〇株、一四日の前場に五万株と連日、買付けをしたというのであるから、一四日の昼に敦煌で原告から「なぜ売らないのか」と言われていたという証言は余りにも矛盾しており、信用できない。一三日の午前中に原告が現引きをして株を売るという事実を前提にしなければ話しが全く繋がらないといえる。したがって、敦煌での食事は、三月一三日の昼であると認められる。

これらの事実によれば、原告が平成二年三月一三日の午前中に日本化学工業株二〇万株を単価三三七〇円で売り注文を被告田中に出した事実は認められる。

3 前記認定したとおり、平成二年三月一三日の昼に「敦煌」において被告田中が原告から「なぜ売らないのか」「伊藤に気兼ねして売らんのか」と詰問されていること、被告会社は、訴外松浦との間において被告伊藤が訴外松浦の売り注文を執行しなかったことを認め示談しているが、その示談内容の不執行日が本件と同一であり(平成二年三月一三日)、同一銘柄(日本化学工業株)であること、被告伊藤は日本化学工業株を単価一〇〇〇円位から手掛け、当時三〇〇〇円以上にまで持ち上げてきており、更に株価は上がると読んでおり、同株の売りについては消極的であったと認められること、これらの事実に加え、前記争いのない事実等及び前記1の認定事実によれば、被告田中は前記原告の売り注文を執行しなかったと認められる。

4 前記認定事実によれば、被告田中と同伊藤は、いずれも被告会社徳山支店の外務員であるが、被告伊藤は同支店は勿論、被告会社全体でも売上成績が十指に入る外務員であり、被告田中は、地味な性格で売上もさほどの成績が残せない外務員であると認められ、平成二年三月九日、一二日に原告に対し日本化学工業株を各一〇万株買わせたのも被告伊藤の推薦、説得によるところ大であり、原告の担当である被告田中としては、同伊藤のお陰で売上を大きく伸ばせた結果となったこと、同月一〇、一一日にも被告伊藤及び同田中は、原告宅に日本化学工業株を推奨のために訪問しているが、被告伊藤が中心となって原告に対し説明していること、被告伊藤が日本化学工業株を一〇〇〇円位から手掛け、三〇〇〇円以上にまで持ち上げてきていたことは被告田中も認識しており、原告の同株を買った経緯からしても同株を売るについては被告田中としては同伊藤の意見を聞かざるをえない立場にあったことなどからみて被告田中が前記原告の売り注文を執行しなかったのは被告田中の独断とはいえず、同伊藤と相談の結果被告両名の行為に基づくものと認められる。

5 顧客から売り注文が出されているにもかかわらず、正当な理由なく同注文の執行をせず、顧客に損害を与えた場合に不法行為が成立することは明らかである。

したがって、被告田中、同伊藤は民法七〇九条により、被告会社は被告田中、同伊藤を使用するものとして同法七一五条により不法行為責任を負う。

二  争点2について

1 前記認定のとおり被告会社は訴外松浦との間において平成二年三月一四日、一五日に日本化学工業株を被告伊藤が訴外松浦に無断で買付けしたことを認め示談しているが、右示談内容と原告主張の無断買付けが同一銘柄で買付け日(三月一三日、一四日)もほぼ一致していること、被告伊藤は日本化学工業株を単価一〇〇〇円位から手掛け、当時三〇〇〇円以上にまで持ち上げてきており、更に株価を上げたいと考えていたこと、また甲三、原告本人により認められる原告が、平成二年三月一七日、被告伊藤らに日本化学工業株を無断買付けされたことについて徳山市の乙山春夫弁護士に相談にいった事実、さらには、争点1において認定したとおり被告伊藤、同田中は前記原告の売り注文を執行しなかったという事実からすれば、被告田中が、平成二年三月一三日、原告名義で買い付けた日本化学工業株三万四〇〇〇株及び翌一四日、原告名義で買い付けた同株五万株は、原告からの買い注文があったとは認められない。

2 原告は、無断買付けについて主位的には不法行為に基づき請求しているが、無断買付けは、本来顧客に帰属しないものであるから不法行為を構成しない。

しかし、無断買付けに基づく取引は、原告に帰属しないので原告は同取引により本来決済時に返還されるべき金額である一億〇八七七万七九三六円を原・被告間の契約に基づき返還請求しうるというべきである。

もっとも、原告と決済時に清算金を返還すべき契約上の義務を負担しているのは、被告会社のみであり、被告伊藤及び同田中は右義務を負担していないので無断買付けに関し右両被告に対する請求は理由がない。

三  争点3について

1 《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、平成二年三月二〇日、信用取引の保証金が不足を来たして被告会社から追い証を要求され、同月二三日、東急の株六〇〇〇株を被告会社徳山支店に預託した。

(二) 平成二年三月二七日、被告会社が、同日の日本化学工業株の前場で終値である二〇四〇円で現物三万株、信用二五万四〇〇〇株を引き取った。これについては原告の要請を受けた被告伊藤が尽力した。

2 一般的には、株取引を行う者が信用取引の保証金が不足したために追い証を入れたり、それまでに取引した株を証券会社に引き取ってもらったりする場合は、それまでの株の取引が自己の取引であることを前提に行われるものであることは疑いない。

しかし、証券会社の者に買い注文を出していないのに勝手に買付けされてしまった者が、預託している株の下落により証券会社から追い証を求められた場合、それを拒否すれば、証券会社が無断買付けの事実を認めない以上、顧客は最終的には現に証券会社に預託中の株を処分され、追い証に充当されるという危険を負担しているから、追い証を入れたという事実だけでは、無断買付けを追認したとは認められないというべきである。

また、顧客が将来無断買付けであることを確実に立証できるならばともかくそうでない以上、当該株が下落傾向にある場合、将来無断買付けであることが立証できない場合をも想定して、無断買付けであるとしながらも損害を最小限に食い止めるために中途で当該株を証券会社に引き取ってもらうことは十分に考えられる。したがって、顧客がそれまでに取引した株を証券会社に引き取ってもらったという事実だけで無断買付けを追認したとは認められないというべきである。

したがって、無断買付けされた顧客が、無断買付けを追認したというためには、当該買付けの効果が本来自己に帰属しないものであることを十分に認識した上で当該買付けの効果を自己に帰属させることを承服した場合でなければならないというべきである。

3 これを本件でみると、前記第三、一、1、(九)のとおり原告は、平成二年三月二七日午前三時ころに被告伊藤宅において「お前の片腕をもらう」などと凄み、三時間近くも居座り、同日午前一〇時一〇分ころ、被告会社徳山支店において被告伊藤に対し顔面を数回殴打する暴行を加えていること、1、(一)のとおり原告は被告会社から平成二年三月二〇日に追い証を要求されてからも直ちには入れていないこと、また、原告が、被告田中に売り注文の不執行や無断買付けについて文句を言っても相手にされないため、平成二年三月一七日、被告伊藤、同田中に日本化学工業株を勝手に買われたことについて徳山市の乙山春夫弁護士に相談にいったが、原告の言い分を立証できるものがなく裁判をしても勝ち目がないといわれたことなどからすれば、原告は、平成二年三月一三日、一四日の無断買付けについて当該買付けの効果は本来自己に帰属しないものであることを十分に認識していたとは到底いえないというべきである。したがって、平成二年三月二三日に被告会社に信用取引の追い証を交付したり、同月二七日、被告会社に日本化学工業株を引き取ってもらったことを根拠に無断買付けについて追認があったと認めることはできない。

四  原告は、予備的請求として、被告らは共同して日本化学株の株価を人為的に変動させて原告に損害を与えたと主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

五  結論

以上により本訴請求は、被告らが売り注文を執行しなかったとして不法行為に基づき損害賠償請求している点はすべて理由があるから認容することとし、被告らの無断買付けについての請求は、被告会社に対し契約に基づき返還を求める限度において理由があるので、その限度で認容することとし、その余の部分及び予備的請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中 治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例